しかしながら,報酬,料金等による所得は,もともと確定申告時に
正確な税額を算定することが予定されており,実際上も,納税者は独
立の事業主体として複数の支払者から支払を受けることが通例であろ
うから,1人の支払者が支払をする時点で,納税者が確定申告時に納
付すべき税額を予想してそれと過不足のないようにすることはもとも
と困難であって,制度上もそのようなことは期待されていないものと
考えられる。
また,施行令322条においては,報酬の種類に応じて基礎控除や
算定方法を個別に定めているとはいっても,全く控除額がないものも
あるし,あっても定額なものにすぎない以上,源泉徴収は,概算徴収
であることを免れないのであって,源泉徴収税額の算定にあたって個
々の納税者が確定申告時に負担すべきであった税額に近づけるまでの
正確性を追求したものでないことは明らかである。
むしろ,報酬,料
金等の源泉徴収制度の多くは,二段階税率方式,基礎控除方式をとわ
ず,源泉徴収義務者において,支払金額さえ確定すれば,他の計算要
素によらずに,源泉徴収税額を自動的に算定できる仕組みとなってい
るとみることができる。
これは,源泉徴収義務者の負担の軽減への考
慮がなされているものと考えられるし,徴税側にとっても,確定申告
を受ける段階で正確な税額を確認する必要があることに加えて,源泉
徴収する段階でも,支払金額以外の計算要素を確認する作業の負担を
負うことを避けることができるとみることもできる。
したがって,源泉徴収制度を導入し,基礎控除や算定方法を定める
については,立法論として,確定申告時に納付する税額ができるだけ
減少するような配慮がなされるべきであるとしても,現行制度として
は,徴税者,納税者及び源泉徴収義務者それぞれの便宜にも配慮した
結果,確定申告時に納付する税額が相当額残存することも制度上容認
されているものといわざるをえない。
(エ) そこで,以上のような源泉徴収制度・基礎控除制度の理解を前提に,
(2)で示したような文理解釈が明らかに不合理な結果を帰結するかどうか
を検討するに,被告は,基礎控除制度には,必要経費の控除という側面
や徴税の確保という側面があることを前提として,ホステスの必要経費
額はその実際の稼働日数に応じてその多寡が決まる傾向があるものとい
える上,徴税の確保や納税者間の公平といった観点からしても,同種,
同額の報酬に対しては,同額の源泉徴収がされるべきであるにもかかわ
らず,「計算期間の日数」を本件各期間の全日数であると解すると,?
実際の稼働日数が1日のホステスも,15日のホステスも基礎控除額が
同額となってしまい,また,?出勤日毎に報酬等を支払う場合と,定期
的に報酬等を支払う場合とでは,実際の稼働日数が同じであっても基礎
控除額が異なることとなるのであって,これらの結論は,余りにも不合
理というべきであり,法(その委任を受けた施行令322条)が,その
ような帰結を導く解釈を予定していたものとは到底解することはできな
いと主張する。
しかしながら,これらの主張を採用することはできない。
まず,基礎控除額に経費的性格があることは
事実であるとしても,それは厳密な計算に基づいて算出されたものでは
なく,むしろ,概算徴収のための計算要素という程度にとどまることは
前説示のとおりなのであるから,基礎控除額が稼働日数に対応して変動
しなければならないという被告の主張の前提そのものに疑問がある。
し
かも,ここで問題としているのは,継続的契約に基づいて稼働している
ホステスなのであるから,1支払期のみを捉えれば,稼働日数に1日と
15日といった違いが生ずることはあっても,長期的にはそのような違
いが平準化されることも考えられるのであるから,特定の支払期におけ
る稼働日数の違いを強調することにも疑問が残るところである。
また,
少額所得を追求しないという観点からすれば,各支払期の収入が,その
稼働日数にかかわらず一定額に達しないホステスについては源泉徴収を
しないという制度も十分にあり得るのであって,この観点からすれば,
稼働日数1日のホステスと,15日のホステスとで基礎控除額が同じで
あっても,何ら異とするには足りないということになる。